第5章 世界にひろがる経済
2 グローバル化
君たちの身近なところに「世界」がある
「グローバル化」という言葉は、1990年代に入ってから使われ始めた言葉なのです。ということは、グローバル化の意味することがらが、90年代に入ってから目立っておきるようになったことを意味するわけですよね。
グローバルという英語の日本語訳は「地球」ですから、グローバル化とは「世界中の国々、そして人々が国境をこえて、より緊密に結びつけられるようになること」なのです。
日ごろ、君たちはあまり意識していないかもしれないけど、私たちの身近なところで「グローバル化」がどんどん進んでいます。
1 食文化からグローバル化を考える
ハンバーガー店*がアメリカから日本にやってきたのは1971年。その後、アメリカの食文化は日本にどんどん広まりました。もともと日本人の主食は米なのですが、朝食にパンを食べる人がしだいに多くなり、昼食はハンバーガーですませるという習慣もごく日常的となりました。
80年代から90年代にかけて、アメリカ型食文化のグローバル化はますます進み、今では、ほとんどの国にハンバーガー店があります。アメリカの食文化が他の国々の食文化を塗りかえたのです。もともと大手のハンバーガーメーカーは、そのレシピをマニュアル化して、世界中どこの国でも、レシピどおりのハンバーガーを売ろうとしたのですが、それぞれの国の食文化や宗教の違いのせいで、メニューやお店の様子は国によってまちまちです。
クイズ1 驚き!発見!世界のハンバーガー
@インドのハンバーガーには( )が入っていない。
Aサウジアラビアの店は一日( )回休む。
Bイギリスには、日本の人気メニューの( )がない。
Cじゃがいもがたくさんとれるオランダでは、ハンバーグではなく( )コ ロッケがはいっているものもある。
解説
もともと世界の人々の生活習慣は多様なのです。ところが、ヒトやモノが海を越えて行き交うようになれば、アメリカの食文化やニュース専門のテレビ放送、ヨーロッパのブランド物バッグや衣類、そして日本のアニメやゲームソフトなどが、世界中に広まるようになりました。
<クイズ 1>で見たように、アメリカのハンバーガーのレシピーを100%そのまま受け入れるのではなく、自国の生活習慣、食文化、宗教などへのこだわりを捨てることなく、必要最低限の修正を加えたうえで受け入れているのです。
答え(模範解答)
●クイズ 1……@ 牛肉 A 5 B フライドポテト C ポテト
2 ヒト・モノ・情報のグローバル化
今日、ヒト、モノ、情報が国境を越えてすばやく安価に移動できるようになりました。主として欧米の生活習慣を取り入れたり、安くて便利な外国製品を輸入したりして、生活様式を変化させるという事例も少なくありません。とはいえ、自国の生活習慣や宗教へのこだわりには、なかなかどうしてかたくななものがあります。
クイズ2 次の絵から、「グローバル化」を象徴するものをさがそう。
(イラストあり)
解説
外国製品を輸入したり自国製品を輸出すること、すなわち貿易は昔からあったのですが、今日では、モノだけではなくサービスの市場がグローバルな規模に広がり、欧米の銀行や証券会社が日本に支店をつくったり、日本の会社がアメリカの弁護士や会計士に相談したりするようになりました。心臓移植の手術をアメリカで受ける患者さんも少なくありません。日本にいながら、外国の株式を売買できるようにもなりました。
3 グローバル化と日本
日本の食文化や日本製の電化製品も、グローバル化の一翼をになっています。Sushi, Tempura, Karaokeなど、日本語がそのまま英語になって使われています。日本の人気アニメ番組やゲームソフトも輸出され*、世界中の国々の子どもたちを楽しませています。
*世界のハンバーガー店
メニューから見るお国柄を紹介しよう。
オーストリアのドリンクの定番メニューはウィンナーコーヒーです。
トルコでは、2002年のW杯のときに、「やつらを食っちまえ」ということから、対戦相手であるブラジル、コスタリカ、中国メニューが登場しました。
韓国ではキムチバーガー、タイではサムライポークバーガーがあります。
店のようすもお国柄がでています。 ノルウェーではボートスルー、カナダではスキースルーの店があります。
サウジアラビアでは、販売する場所が男性と女性によって区切られています。
*海外に進出する日本の文化
インスタントラーメンは日本で生まれ、約30か国で現地生産されています。
また、しょうゆや化学調味料なども、日本食の普及によって外国で使われています。
日本のマンガやアニメの進出もさかんで、アジア諸国では、貸本屋に多くの日本のマンガがならんでいます。
でも、インスタント食品、ゲームソフト、アニメだけではさびしいよね。
4 なぜグローバル化は1990年代に急進展したのか
最初に書いたように、グローバル化は1990年代に入ってから急進展したのです。その理由を考えてみましょう。
考えてみよう1
このイラストは20年前のようすを表したものです。これが1990年代以降どう変わったのかを考えましょう。
(イラストあり)
解説
90年代に入って、グローバル化が急進展した理由は2つあります。
ひとつは、ヒトやモノを海を越えて移動させるための費用がだんぜん安くなったこと、そして情報通信が高速化し送受信の費用が安くなったことです。その背景には、パソコンでインターネットやEメールを、だれでもどこででも使えるようになったという技術の進歩があります。国際電話はEメールにとってかわられたばかりか、インターネットの回線を使って、格安の値段で国際電話がかけられるようになりました。
もうひとつは、1989年11月、東西冷戦*の象徴であったベルリンの壁が崩壊し、91年12月、ソ連が解体され、東西を仕切っていた「壁」がなくなったことです。
5 グローバル化って問題はないの?
グローバル化の結果、ヒト、モノ、カネの移動が頻繁になりました。ヨーロッパのサッカーチームには、世界中の名選手がひしめいています。国籍をフランスやイタリアに移したわけではなく、ワールドカップの際には母国のチームの選手としてプレイします。ヒトの移動の誘引となるのは高い給料と働きがいのあること。会社が工場を他の国につくるのは、労働力の価格(賃金)が安いことと、現地で作ったモノを売りさばくのに十分なほど市場規模が大きいことです。リスクが低く利回りの高い投資*先を求めて、おカネは世界中を動き回ります。
グローバル化の進展は、世界中のすべての国々を、そしてすべての人々をハッピーにするわけでは必ずしもありありません。東アジア諸国は、先進国から資本と技術を導きいれることにより、グローバル化の恩恵をさずかりました。しかし、中東イスラム圏やアフリカの国々は、今のところ、グローバル化から取り残されています。総じていえば、グローバル化は国家間の経済的な格差を広げました。先進国の人々にとっても、工場が海外に移転したりすると、また移民労働者*が増えたりすれば、失業率は高まりますし、賃金の上昇にもブレーキがかかります。また、工場の移転先の国の自然環境が破壊・汚染されることを心配する環境保護運動家も少なくありません。
考えてみよう2
今日の世界では、グローバル化をもっと推し進めるべきだとする立場と、これ以上のグローバル化は望ましくないとする立場との対立があらわになっています。 君たちはグローバル化についてどう考えますか? 話し合ってみよう!
話し合いのポイントは以下のような点です。
・ 外国人力士をどう思う? プロ野球の外人選手枠はあるほうがいいのか?
・ 安い中国製品がどんどん入ってくるのは、私たちにとっていいことなのか?
・ 外国人労働者は増えることは、いいことか?
・ 将来、君たちは外国で働きたいと思いますか?
・ 外国人力士について……
・プロ野球の外人選手枠について……
・ 安い中国製品について……
・ 外国人労働者について……
・外国で働きたいかどうか……
*冷戦
第二次世界大戦後の米ソを中心とする2つの陣営のきびしい対立のことです。戦火をまじえることはありませんでしたが、緊張した状態が続きました。
*投資
利益を見込んで、企業などに出資すること。
*移民労働者
「難民、旅行者、巡礼者および遊牧民を除き、広義の雇用を目的として、本人の国籍とは異なる国に移動したもの」というILOの定義があります。