はじめに
2005年3月
京都大学経済研究所所長佐和隆光
君たち中学生は、経済のことに関心がありますか。
経済というと「お金」を連想する人が多いでしょう。「お金」は経済の血液だといわれているくらいですから、この連想はまちがっていません。「お金」が経済という体のなかをグルグルと回っているのです。その回り方をちょっとみてみましょう。
君たちのお父さんやお母さんは、会社やお店で、なにか人びとのためになる仕事をして、その見返りに「お金」をもらっているから、君たちは安心して勉強していられるのです。やがて、君たちも学校を卒業して、なにかの仕事につかなければなりません。仕事でかせいだ「お金」で、欲しいモノとサービス(散髪、クリーニング、外食など)を買ってこないと、君たちや家族はくらせません。
お父さんやお母さんは、そして会社やお店も、かせいだ「お金」の一部を、税金として国や地方自治体におさめています。そのうえ、私たちは政府に消費税もおさめています。政府はその「お金」をつかって、公務員の給料を払ったり、橋や道路をつくったりしています。このように「お金」はグルグル回っているのです。これが経済なのです。
経済を「学ぶ」ということは、経済の血液としての「お金」の役割や動きについて知ることにくわえて、血液がまわる臓器や骨がどうなっているのか、どのようなメカニズムで動いているのかという、経済の「仕組み」を理解することなのです。経済の「仕組み」を知れば、モノとサービスの価格はどのようにして決まるのか、人はなんのために働くのか、消費者そして企業はどのように行動するのか、政府はどんな役割をになうのか、なぜ自由貿易はすべての国ぐにの福利を高めるのか、為替レートはどのようにして決まるのか、なぜ景気が好くなったり悪くなったりするのか、「豊かさ」とはなんなのか、といった疑問を解くことができるようになります。経済を学ぶにあたっては、結論を覚えるのではなく、「なるほど、そうだったのか!」と君たちが納得することが、なによりも大切なのです。
君たち中学生に、経済の「仕組み」を、わかりやすく、そして正確に伝えるために、私たちはこの本を作りました。監修者として私は、この本の執筆者やイラストレーターが立ち上げた「子どもの経済教育研究室」(http://kids-econ.com)の編集会議に出席し、どうしたら君たちが理解し納得できる内容になるかを、くりかえし討論してきました。そうしてできあがったのが、この本です。とても良い本に仕上がったことを、執筆者とともに、たいへんうれしく思っています。
君たちが、この本を使って、「経済っておもしろい!」と思ってくれることこそが、この本を一生懸命つくった私たちにとって、かけがえのない喜びなのです。