第4章 政府のしごと
1 財政
そのお金は誰が出す?
君はどうして教科書が無料で配付されるか知っていますか。教育というのはみんなが必要なものなので、国が最低限度の水準を保つために国民から集めた税金を使って支えています。他にも、公共施設を作ったり、社会保障にお金を出したりして国はいろいろな経済面での活動をしています。それを財政といいます。私たちの生活に密接に関係している財政の仕組や役割について学んでいきましょう。
1 学校のかかる費用はいくらなんだろう?
クイズ1
君たちが1年間、学校に通うとかかるお金が3つ上がっています。それを君は直接払っているだろうか。
(1)授業料…………………………
(2)教科書代………………………
(3)施設費…………………………
これらのお金はあわせると1人当たり、1年間どのくらいになるだろうか。
@20万円くらい A50万円くらい B100万円くらい C200万円くらい
考えてみよう1
だれがどのように負担しているの?
公立の学校にかよっている人は、修学旅行費の積立金や給食費など直接払うお金を除いて、学校に納めるお金はありません。だから、公立の学校は「ただ」で教育を受けられるような気がしてしまいます。でも、だいたい1年間に1人約100万円*近くの金額が君たちの教育費に支出されているのです。
考えてみよう2
そのお金は誰がどこで用意をしているのだろうか?
そう、君たちの保護者や会社などが納めている税金から出しているのです。つまり、税金で校舎を建てたり、先生を雇って給料を払ったり、電気代などを払ったりして、学校を運営しているのです。教育にお金を使う*のも財政活動のひとつです。
2 国と地方自治体の分担は?
フォトランゲージ
この学校の写真にのせた点線は何を意味しているのだろう?
(写真)
▼下のアドバイスも参考にね!
●フォトランゲージ……アドバイス
点線は、学校の建物の半分は設置している市町村、残りの半分は国が税金を出して建てていることを表しています。
足りないときはどうしている?
では、市や町に収入が少なくて、教育など住民に必要なサービスや施設を自分の市や町だけではまかなえないところはどうしているでしょう。
それは、国が集めた税金の一部を市や町に回してまかなっています。このルートは、大きく2つあります。ひとつは、地方交付税交付金*というルート。もうひとつは、国庫支出金(補助金)*というルートです。学校の建物を建てるときは、国が最大半分まで補助金を出すことになっています。だから、君たちの校舎も上の写真のように半分は市町村、残りは国が出して作られている可能性があるのです。
3 国の財政の規模を家計に置き換えると
いま国の財政規模は約82兆円程度。それを1000万分の1(10兆=100万)に縮めて、家計に直すと年収約820万円の家庭の生活になります。
クイズ2
次の表は、現在の国の財政を家庭の収入と支出に置き換えてみたものです。するとどんな項目になるか、空らんに適当な言葉をヒントから選んで記入してみよう。
【歳出=支出】…約822万円
(3)=家計費約472万円
@社会保障費 A教育関係費
B公共事業関係費 C防衛費
D産業経済費 Eその他税
(4)=仕送り約161万円
G国債費=ローンの返済約184万円
【歳入=収入】…約822万円
(1)=本人の収入約440万円
その他=家族アルバイト約38万円
(2)=ローンの返済約344万円
※ヒント:租税、一般会計、地方交付税、国債
答え(模範解答)
●クイズ 1……(1)無料 (2)無料 (3)無料 1年間の費用…B
●考えてみよう1……学校を設置している市町村
●考えてみよう2……保護者などが納める税金を使う。
●クイズ2……(1)租税 (2)国債 (3)一般会計 (4)地方交付
*100万円
文部科学省「地方教育費調査」によると、教育費は平成14年度では102.8万円となっています。
*教育にお金を使う
国庫負担金といって、現在のところ公立学校の人件費の2分の1は国、残りは各地方公共団体が負担することになっています。
*地方交付税交付金
国税の一定額を地方の格差を是正するために交付するお金。基本的に使い道は各地方公共団体に任されます。
*国庫支出金(補助金)
国が、産業振興や地域活性化などの名目で各地方公共団体に目的を限定して支給するお金のことです。
解説
(円グラフ)
平成17年度(2005年度)予算
いまの日本の政府は、入ってくる収入以上の生活をしている家庭と同じです。でも、やらなければならない仕事は、福祉だったり、公共投資だったり簡単に削れません。教育もそうですね。
いつ頃から政府の仕事がこんなに大きくなったのでしょうか。スミス君の影響を受けた19世紀の半ばすぎまでは「小さな政府」*でいいとされてきました。そして国は国防とか外交、警察など最低限の仕事をすればいいとされたのです。ところが、20世紀にはいってケインズ君 が登場する時代になると、政府が福祉や公共投資など積極的に仕事をして国民生活を豊かにしようとする「大きな政府」*の時代になりました。だから国債*を発行して収入を補う必要が出てきたのです。
4 かえさなければいけない借金はどのくらいたまっているか?
クイズ3
次のグラフは何を意味しているのだろうか?@〜Bから選んでください。
(グラフ)
答え(模範解答)
●クイズ 3……A
適当なものを次から選んでみましょう。
@( )防衛費の推移のグラフ
A( )政府が返さなければいけない借金額の推移のグラフ
B( )政府開発援助として発展途上国に支援した金額のグラフ
解説
いま国も地方も使えるお金が少なくて困っています。景気が悪く、税金が思うように集まらないからです。そうなると、借金をしてでも仕事をやらなければならなくなってしまっています。
国は、国債というものを発行して借金をしています。地方も同じです。
どのくらいの借金をしているかというと、国は毎年30兆円を超えた額です。返さなければいけないお金が500兆円を超えてあります。地方も入れると返さなければいけないお金は740兆円を超えています。
考えてみよう3
さあ大変、どうするか?
こんなにたくさんの借金を抱えて、やらなければいけないことはたくさんあるし、限られた収入で、優先順位を決めて仕事をしなければならなくなりますね。
さて、上でみた日本の財政状態をもとに考えてください。
課題は、現在の財政状態で、様々な要望に満足のゆく回答を出すことです。もし君が財務大臣だったら、限られた予算のなかで、何を重点に予算を組むか。前ページの円グラフの@〜Fの歳出項目を取り上げて、各自5位までのランクをつけて発表してクラスの予算案を話し合いながら作ってみてください。(なお、Gは義務的経費といって減らすことができませんから、ここでは除外しています。)
(表)
*「小さな政府」
アダム・スミスは「安価な政府」論を唱えました。19世紀にドイツの社会主義者はそれを「夜警国家」と批判しました。*「大きな政府」
ケインズの目指す国家は「福祉国家」といわれています。それを批判して「大きな政府」と称することがあります。*国債
日本の法律では国債の発行は原則として禁止されていますが、例外として公共事業目的なら発行してもよいことになっています。これを建設国債といいます。近年は、これ以外に一般経費をまかなうための赤字国債が発行されています。