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2003・10・11 日本社会科教育学会ウエッブサイトを利用した経済学習の試み−「e-教室」一年の実験から−7 まとめと今後の課題一年間の実践のごく一部を紹介することを通して,社会科教育に対してウエッブサイトでの「経済と私」がなげかける意味を考察してきた。最後に簡単なまとめと今後の課題を列挙して稿を閉じたい。 @「経済と私」では,基本的には一対一の関係を軸とした「学びのキャッチボール」をすることからはじまり,最終的には多対多のマルチ方向性の「学びの共同体」つくりが試みられたが,それはある程度成功したといえる。 Aそれは,参加者が300人という限られた範囲であったこと,報告者を含む教授陣が複数存在し,それが細心の注意を払いながら支援者に徹することにより「生徒」との関係つくりを行ったことによる。 Bさらに,内容的には学習指導要領には取り上げられていない希少性や機会費用など,経済の基本概念と経済理論を踏まえたカリキュラムを持ち,いかなる疑問や「生徒」からの問いかけにも回答できる複数の指導者を持っていたことにもよる。 C教室での学習とはことなり,いつでも,どこでも,だれでもが参加できるバーチャル空間での学びは,総合学習との関連性のなかで,現在の社会科教育が教室から出ようとしている動きを促進する一つの試みと言えよう。 Dこのような仕掛けと内容を持つ「学びの共同体」のなかで,生徒の経済認識は「非線形的」に深まりを示している。これは一定の時間のなかで効率的に知識を獲得させようとするリアルな教室授業とは異なる「もう一つの学び方」を提起するものとなりうる。 もちろん,すべてが素晴らしいわけではない。カリキュラムを基にしたが,ケーススタディでとりあげたように,それがきちんとすべて思惑通りに流れたのではない。環境問題や,福祉,労働問題,情報をめぐる問題など取り残したテーマも多い。 なにより,参加生徒のなかで特に対象にしたかった高校生の書き込みが予想外に少なかったという事実もある。書き言葉で進めるバーチャル教室と,言葉ですすめるリアルな教室の違いも大きく横たわっており,社会認識の深まり方に関する比較も簡単ではない。そういった問題点の解明がきちんとできているわけではない。 とはいえ,リアルな教室での授業にフィードバックできる要素をたくさんもった冒険であった「経済と私」の一年をさらに発展させ,リアルな教室を豊かなものにしてゆくにはどうすればよいか,今後も考えてゆきたいと思っている。 文献新井2003 拙稿「ウエッブサイトを利用した経済教育の試み−e-教室半年の実験から−」『経済学教育』第22号,P24-28,経済学教育学会 森田2001 森田正康『eラーニングの常識』朝日新聞社,p9 新井紀2003 新井紀子『ネット上に学びの場を創る』岩波ブックレット604,p31 NCEE2000 NCEE“Voluntary National Content Standards in Economics”(翻訳『経済学習のスタンダード20』消費者教育支援センター 新井1997 経済教育研究会『新しい経済教育のすすめ』清水書院,p8-9 新井2002 拙稿「視聴覚教材を利用した高等学校における経済学習の新しい試み−世の中なんでも経済学の冒険−」『経済学教育』第21号,p99-107,経済学教育学会 岩田1996 岩田年浩『経済学教育論の研究』関西大学出版部,p49 |
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