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月刊『資本市場』平成17年2月号 掲載原稿投資教育と株式学習ゲーム東京都立西高等学校 新井 明 3 実践のなかから登場する新しい芽筆者は,これらのタブーは決して根拠がないとか,すぐに打ち破ればいいととは考えていない。もちろん,不当な意見には正面切って反論すべきだし,逃げたり隠れたりする必要は全くない。ただ,それらを正面きって批判をしたり,突破したりする直接行動に出るより,実践を地道に積み上げて次第にタブーがタブーでなくなる戦略をとる方が,学校文化のハードコアを溶解させることに通じるし,現実的であると考えている。これは現場の人間の実感でもある。そんななかから生じる新しい芽をいくつか紹介してみたいと思う。 一人目は,筆者が株式学習ゲームを紹介するときによく引用する生徒である。もし日経300のなかに保護者の関連の会社があれば購入するようにとヒントを与える。その時父親が勤めていた会社を買った男子の生徒が,「ほんとうにお父さんの会社は大丈夫なの」と聞いて,父親から会社の様子,その会社がいまは業績が悪いけれど決してそんなやわな会社ではないことを聞いて改めて日本企業の強さを自覚したという話である。彼は,その後,東大の経済学部に進学した。経済を選択した理由の一つが株式学習ゲームであったと,後で聞いた。 二人目は,理系に進学した生徒のケースである。彼は,高校一年生と三年生の二度株式学習ゲームに参加している。一度目は,ゲームが試行段階の時の参加生徒である。三年生の時は,筆者の選択授業に参加したためである。優秀な生徒で,現役で東大の理Tに入学した。その後,建築の修士まで終了したのだが,外資系の経営コンサルタント会社に就職した。なぜ進路を変えたのかを聞いたところ,理系も文系も両方関心があって大学進学の時からどちらの方向がいいか迷っていたとの答えだった。株式学習ゲームはどうだったと聞くと,おもしろかったとの返事。ゲームが何か影響を与えたかという質問には,直接自覚はないけれど,振り返ってみると見えない影響はあったかもしれないという返事であった。彼がどんなコンサルタントとなるか成長が楽しみである。 三人目は,先日あるFPの方から聞いた学生の話である。彼はそのFPの方が主催している理工系大学での投資クラブのメンバーだったそうである。高校時代に株式学習ゲームに参加したといっていたとのことで,良く聞いてみると前任校で私の授業を受けていた生徒だったようである。残念ながらその生徒がだれかを確認することがそのときには出来なかったのであるが,彼は,野村総研に就職が内定しているということであったので,探せば特定できるであろう。それよりも,このケースも高校時代の体験が大学時代の投資クラブへの参加やさらには進路選択に影響を与えているという事実だけで十分かもしれない。 三人のケースを紹介したが,1600人のなかのわずか三人である。生徒のなかにも反対論や批判はあろう。実は,現在大学の商学部に在学中の筆者の娘も中学生の時に株式学習ゲームに参加している。その時の感想はと聞いたが,返って来た答えは「何がなんだかわからなかった。中学生には難しいよ」である。しかし,彼ら・彼女らにとって株式ゲームと出会ったことが直接ではないとしても,人生の航路に見えない何らかの影響を与えていることはあるのではなかろうか。現に,私の娘は周囲の予想を裏切って商学部に進学した。親としては驚きの選択であった。 |
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2007 © Akira Arai |