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2004・08早稲田大学経済教育総合研究所シンポでの発表日本における経済教育の現状と課題東京都立西高等学校 新井 明 5 日本の経済教育がこうなった原因十分とは言いがたいが,経済教育をまがりなりにもおこなってきた日本の学校教育,社会科教育でなぜこのような結果が生じてきたのか。ここではその原因を,これまでの日本の経済教育を規定してきた,親学問との関係と教える教師の二点から分析したい。 第一は,これまでの日本の経済教育におけるマルクス経済学の影響力の強さの問題である。さすがに1991年のソ連崩壊後にはマルクス経済学の地位は低下しているが,日本では戦後の民主化のなかでアメリカの影響で社会科が導入されたにもかかわらず,経済教育の領域ではマルクス経済学の知的影響力が圧倒的に強かった。経済学の分類で言えば,歴史主義,物質主義的な経済学が経済教育の主流となっていたわけである。その結果,希少性や機会費用,選択といった個人の意思決定の要素より,生産,労働,階級関係の理解がまず求められたわけである。なかにはマルクスの剰余価値説を高校生に理解させようとする実践まで現れていた。この結果,経済教育では,個人や社会の意思決定より,企業性悪説にたち,問題がおきたときには犯人探しや告発的な授業が行われることになった。いわゆる近代経済学は,体制擁護の経済学であり学ぶに値しないという議論まで行われていた。 生徒にとっては,社会への問題関心は喚起されるが,その解決へのツールを与えられず,反体制的な意識を高揚させるものが政治・経済の授業であったとも言えよう。さらに,農業や中小企業など,二重構造論に基づき保護政策への傾斜を無批判に受け止めさせることにもなってしまった。社会の矛盾に気づかせ,その解決への指向を育てることは社会科教育の役割の一つであるが,それが生産的な方向に向かなかったとも言える。 それをさらに助長したのが,第二点である,教師の問題である。 戦前の地歴科中心の教員養成は,戦後になっても変わらず,小中学校段階での教員養成学部では地歴中心主義が続いていた。社会科教育を専攻する学生も,教員の人的配置も少ない経済学教室より地歴教室に所属する者が多く,小中の教員で経済学をきちんと学んで,自身をもって教えられると自己評価できる教員はごく少数でしかなかった。それを実証したのが1994年の宮原調査である。 名古屋女子大の宮原悟教授は,中部圏の148名の消費者講座に集まった小中学校の教員に,経済教育についてのアンケートをとった。その結果,経済学についておおよそのイメージを持っていると答えた教員は,小学校で48.6%,中学校で56.1%。しかし,これらの教員のなかで,経済学とはどのようなイメージですかの設問で,現在の主流派の経済学が中心命題としている資源の有効な利用の仕方を解答したものが,小学校で23.1%,中学校で13.0%しかいないのである。さらに,子どもたちに教えるのに困難を感じる項目を挙げさせたときに,機会費用とトレードオフ,絶対優位と比較優位は半数以上の教員が困難を感じると解答し,困難を感じないとしたものは,機会費用では,小学校10.3%,中学校で7.3%であり,比較優位では,小学校4.7%,中学校4.9%でしかなかった。 以上二点から,日本のこれまでの経済教育の独自性,問題点が浮かび上がるのである。 |
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2007 © Akira Arai |