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消費者金融研究会発表資料 2005/07/01

経済・金融教育の実践から浮かび上がる諸課題

東京都立西高等学校   新井 明

3 金融分野での四つの授業実践例

実践例A オーソドックスな 金融分野の学習

 上記,@の分野での学習である。これは,特に工夫などをすることなく,いわゆるプリント授業をオーソドックスに行っている。

 対象学年:一年生,「現代社会」,三年生「政治・経済」で実践 2時間配当

 授業の手順

・導入としてNHKビデオ『世の中なんでも経済学』の「どこにいった私の貯金」を見せ,銀行の基本的な役割や貨,「お金って何」を見せ幣の役割などを紹介して,興味をひきつける。

・プリントに沿って,貨幣の役割,金融の定義,日本銀行の政策などを紹介してゆく。

・統計の読み方としてマネーサプライの範囲,また,信用創造の計算方法などを紹介する。

・現在,金融分野で問題になっているデフレ克服のための政策や,インフレターゲット論などの時事的問題も新聞記事などをもとに解説する。

実践例B アクティビティを通して考えるお金の問題

 授業では常におこなっているわけではないが,教員向け研修などで実施する実践例である。

対象学年 一年生「現代社会」,三年生「政治・経済」

授業の手順

・通常の授業の中でお金に関して次のような疑問を提示して次のアクティビティをおこなう。

・お金のなぞを解け

 なぜお金を使うのか,お金がないとどうなるか,それを確かめよう

・アクティビティ1  もしお金がなかったら

 5人の生徒 それぞれにいろいろなものを持たせる

 それぞれの交換したいものを指示しておく

交換を行なわせる

 何分かかるかを計っておく

 お金を導入する

 そうすると何分になるかをもう一度計る

ここから,貨幣の交換手段としての役割が浮かび上がる

そのほかの手段はなんだろうかを考えさせる

・アクティビティ2  お金がたくさん出回ると

 生徒10人程度に模造のお金を適当に渡す

 ある品物(100円ショップで購入)をオークションにかける

 参加生徒は手持ちの現金の範囲でオークションに参加

 一度落札したら,お金を今度は別の生徒に二倍にして渡す

 オークションをおこなう

 一度目のオークションの結果と二度目の結果を比較する

   これはマネーサプライの増加によって物価が変動することを実感させる

   MV=PTの理解ができるか

実践例C 「株式学習ゲーム」

 分野Aに関しての実践事例である。「株式学習ゲーム」は東京証券取引所が中心になって提供している株式売買のシミュレーション教材である。同種のものに「日経ストックリーグ」がある。

 対象学年 一年生「現代社会」、三年生「政治・経済」で授業本論と平行して実践

 時間配当 ゲームの立ち上げと、銘柄選定に2時間、期間中に何回かの点検時間をとる。

 授業の手順

 ・グループ単位で行う。各グループ所持金が1000万円を持ち、それを株式(日経300)に投資し、一定の期間売買をしてその結果を競う。

 ・購入銘柄のヒントとして、保護者の関係している企業があれば購入する。ライバル企業を購入する。輸入関連と輸出関連の企業を購入して外国為替と株式価格の関係を見る。テレビなどで知っている会社、逆に全く知らない業界の会社を買ってみるなどを紹介する。

 ・結果を踏まえて、このゲームから発見できたことをレポートさせる。

 生徒の反応

「・・今回のゲームの反省点は二つある。一つは,はじめの頃適当に買ってしまった株。これが最後まで足を引っ張った。二つ目は,最後に調子にのってしまったことだ。・・あんなに損をするとは思ってもいなかった。簡単に金儲けができると考えていた。だがその野望は見事に打ち砕かれ,無様な順位に終わった。本当にくやしい。」(T.T)

「・・僕のチームは全41チーム中40位だった。・・今回このゲームで体験できて本当によかったと思う。何も知らずに本当のお金でやっていたら危ないところだった。また機会があればやってみたいと思う。」(Y.M)

実践例D 「カード社会の謎を解け」

 分野Bの授業例である。消費者問題,特にカード問題を扱った特別授業である。

 対象学年:一年生「現代社会」で実践 1時間配当

 授業の手順

 ・導入として、生徒や教師がもっているカードを提示させ、生徒が持てるカードと持てないカード(キャッシングカード、クレジットカード)を判別する。

 ・第一の謎「カードを使うとなぜ買い物ができるのか?」を探求する。そのなかで、カードのしくみ、契約、信用などの概念を押さえてゆく。

 ・第二の謎「銀行とカード発行会社はどうちがうのか?」を探求する。銀行とノンバンクの違い、金利の違いの背景、経営方法の差、無担保であるリスクなどを紹介してゆく。

 ・第三の謎「なぜカードを巡るトラブルがおこるのか?」を探求する。どんなときに借りるのかを考えさせ、カードを使う場合の機会費用(もし使わなかったらどのような可能性があるか)を考えさせる。金利に関しては、もし返済が滞って多重債務に陥ったときにどうなるかを「72の法則」(複利計算で元利が二倍になる時期は、72を金利で割ると得られるというもの。カードの金利は本来単利であるが、多重債務で自転車操業になると複利に近い金利がのしかかってくる)によって計算してみる。また、だれもがだまされる要素を持つことを、「カードの名義貸し事件」を素材としたロールプレイで体験させる。

 ・まとめとして、基本的に現代は自己責任の時代であることを確認する。

 生徒の反応

 「計画性がない人間がカードを持っていても、後で返済ができなくなる可能性が大いにある。カード社会になってゆく日本で生きるためには、個人がカードのしくみを知り、信用されるようにならなくてはならない。そしてカードをうまくつかいこなして初めてカード社会に生きていることになるのだと思う。」(A.T)

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経済・金融教育の実践から浮かび上がる諸課題

  1. 1 金融経済教育という概念と実態
  2. 2 経済・金融分野に関する私の実践
  3. 3 金融分野での四つの授業実践例
  4. 4 実践事例から浮かび上がる問題点
  5. 5 提言二つ
2007 © Akira Arai