LINK
  1. けいかも

  2. 子どもと家族で考える。経済ってなんだろう?
Mail
2004・08早稲田大学経済教育総合研究所シンポでの発表

日本における経済教育の現状と課題

東京都立西高等学校  新井 明

4 経済理解力テストからみる日本の経済教育の問題点

 このような日本の経済教育の制度的な特色がどのように生徒の経済理解に影響を及ぼしているかを継続的に調査したものに,早稲田大学の経済教育総合研究所が行っている「経済理解力テスト」がある。

 「経済理解力テスト」は名称を「生活経済テスト」として,現在までに1996年,1998年,2000年,2001年にわたり高校生を主な対象として四回実施されている。その成果は第1回から第3回までは『経済リテラシー入門』,第4回テストは『21世紀における経済教育政策の日米比較』(ともに早稲田大学経済総合研究所刊)にまとめられている。詳細はそれをお読みいただきたいが,簡単にその結果を紹介すると次のような日本の経済教育の問題点が浮かび上がる。

 一つは,日本の高校生は,経済知識に関してはそれほど低くないということである。それは各テストの平均正答率に現れている。例えば,第1回は58.8%,第2回は46.2%,第3回は49.7%,第4回は52.1%である。これは一見すると極めて悪いようであるが,学習していない領域を含んだり,消費者問題のプラスされた設問を含んだ数字であり,知識レベルの問題の平均正解率は,第1回で58%,第2回で42.2%,第3回で58.4%,第4回で54.5%でありまずまずの許容範囲となっている。第2回が低いのは消費者問題に関する知識の不足があり,これは後述する。

 二つ目は,基礎的経済概念である希少性,機会費用などの知識や理解が低いことである。これはテストによってばらつきがある。第1回は62%であったが,第2回と第4回は,それぞれ39%,47%となっている。なお,第3回では基礎的経済概念は出題されていない。また,この結果は,対アメリカ,オーストラリアなどとの国際比較でも格差が大きく,日本の高校生の弱点がここに焦点化されている。なぜ基礎的経済概念が弱いか。理由はタ簡単であり,教えられていないからである。このことが,経済学習をすすめるための前提となる理解を日本の高校生が持っていないことを表している。

 第三は,応用力の不足である。知識や理解に比べて応用力が低くなるのは当然といえば当然であるが,これが前項であげた基礎的経済概念の知識や理解が低いことから由来するとすれば問題である。

 第四は,金融や消費者問題のような現在解決を迫られている問題への理解が不足していることである。第2回のテストの低い正答率の背景には,このテストが第1回のテストをベースとし,さらに消費者問題を10題プラスしたものとなっているためである。第3回は金融問題を中心とした「ビッグバンキソテスト」というタイトルで実施されている。この二回のテストだけでなく,マクロ経済分野での金融に関する問題の正答率は高くない。ここからは,本稿の2で取り上げた,短期の問題「いまここにある危機」に対して,取り組みながらも十分な成果をあげていない現状が浮かび上がる。

HOME

日本における経済教育の現状と課題

  1. 1 はじめに
  2. 2 日本経済が直面する三つの課題と経済教育
  3. 3 制度面からみた日本の経済教育
  4. 4 経済理解力テストからみる日本の経済教育の問題点
  5. 5 日本の経済教育がこうなった原因
  6. 6 そしてこれから
  7. 7 おわりに
2007 © Akira Arai