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企業家教育の実践から見る高等学校における経営教育の課題

東京都立西高等学校 新井 明

1 はじめに

 報告者は,2003年9月の日本経営学会において,高等学校における経営教育の問題点を何点か紹介させていただいた。普通科においては時間の制約もあり,企業や株式会社を扱うことは出来ても,経営の観点を含んだ内容を正面きって取り上げることは難しいこと,そのようなかでも現場においては現状を突破する試みが続けられていることなどを紹介した。今回のシンポジウムでは,報告者が実際に取組んだ経営教育の観点を含む「会社をつくろう」という企業家教育の実践の概要を報告することを通して,高等学校普通科において今後経営教育を進めるうえでの課題を何点か提起したい。

2 高等学校における企業家教育の試み

 周知のように,企業家教育(起業家教育,アントレプレナーシップ教育)とは,端的には企業を起こす人材の養成であるが,ひろくは,問題を解決する指向をもち,その課題を新たなアイディアや方法で突破する技能と能力をもった人材を育成する教育である。その点から言えば公民科教育との接点が多くある領域である。大学では経営学部,商学部などで起業家養成の講座が開講されし,ビジネススクール教育の中心の一つともなっている。

 その企業家教育が現在,高等学校までの教育の中でも注目されている。その理由の一つには,経済産業省を始めとする社会からの要請がある。もう一つには,総合的な学習の時間の導入がある。現場では,総合的な学習の時間のなかでの学習項目として注目を浴び,部外講師などを招いての授業やシミュレーションを取り入れた授業などが行われている。

 今回紹介する報告者の授業は,報告者もメンバーとなって協力している,立教大学ビジネス・クリエーター創出センター(代表廣江彰教授)の5ヵ年研究プロジェクト「『ビジネス・クリエーター』創出のための基盤整備と教育プログラム形成に関する研究−小学生から大学生までの一貫性のあるキャリア形成支援システムの構築を目指して」の一環として実施したものである。同プロジェクトでは,一連の実験授業を踏まえ,小・中・高等学校のための起業養成プログラムを開発し、教育現場への普及を図ることを目的としている。

3 授業の計画とその実際

 実験授業は,報告者の前任校である東京都立国立高等学校の一年生向けの「現代社会」および「総合的な学習の時間」を使って,04年1月〜3月までの期間に実施した。報告者の経済分野の授業では,事前に,『レモンをお金に変える方法』を英文で読ませ,経済の基本概念や企業についての概略の学習を終えている。また,授業と並行して「総合的な学習の時間」で「株式学習ゲーム」を約3ヶ月実施して,企業や株式会社に関する知識を他の生徒に比べて多く持っている生徒を対象としたことを付記しておきたい。なお,テキストとして,非特定営利活動法人アントレプレナーシップ開発センターが作成した『集まれ起業家の卵,アントレの木』を利用した。授業は次のように計画した。

タイトル主な内容教材等
1企業を立ち上げる授業の目的の説明。グループ作り。教材の配付
2この問題解決できるかな環境と福祉に関して,解決すべき問題を発見する。テキスト,プリント
3アイディアがいっぱいテキストの『アントレの木』の課題の環境,福祉の問いをグループで挑戦。テキスト
4もし企業を起こすなら企業を起こすための法律知識と資金の問題をシミュレーションする。プリント
5起業家の実際環境と福祉の分野で企業を立ち上げた人の話を聞く。外部講師の講義
6ビジネスプランに挑戦1環境,福祉分野で新たなビジネスを立ち上げるための話し合いを行う。KJ法を活用
7ビジネスプランに挑戦2ビジネスプランを具体化するための作業を行う。外部講師のアドバイス
8発表会自分たちでつくりあげた新製品やサービスを発表する。パワーポイントを使用

当初8時間配当を予定したが,実際には,14時間の授業時間と課外の学習,および発表会のための準備の時間が必要であった。その理由としては,6/7回目のビジネスプランに挑戦の箇所で,出したアイディアを具体的な形にする箇所で予想外に時間と内容的なつめが必要となったことが大きい。また,第4回での扱った資金問題をどこまで考えるかどうかで生徒の取り組み時間も異なったことも大きい。

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企業家教育の実践から見る高等学校における経営教育の課題

  1. 1 はじめに
  2. 2 高等学校における企業家教育の試み
  3. 3 授業の計画とその実際
  4. 4 結果と課題
  5. 5 提言とまとめ
2007 © Akira Arai